あなたが渡したのは、肩書だけではありませんか——任命の4点セット
📗 SES経営のOS|育成・評価 第6講「主任をやってもらうことにした」——その辞令で、あなたは相手に何を渡したでしょうか。
多くの会社で、答えは1つです。名前だけ。悪意があるわけではありません。人事の設計が、そうなっていないだけです。
渡せるものは4つ。そして、安い順に渡される
任命のときに渡せるものは、4種類あります。並べると、渡す側のコストの順になります。
| 渡すもの | 中身 | 渡す側のコスト |
|---|---|---|
| ① 肩書 | 名前 | ほぼゼロ(辞令1枚) |
| ② 役割 | どこまでが持ち場か | 小(説明する手間) |
| ③ 権限 | 何を自分で決めてよいか | 大(自分の権限が減る) |
| ④ 意味 | 何のためにこの役があるか | 最大(自分の言葉で語れないと渡せない) |
人は、安いものから渡します。だからほとんどの会社で、①だけが渡され、②が曖昧なまま、③が抜け落ち、④は誰も口にしないまま、管理職が量産されます。
そして経営会議で、こう言われます。「うちの管理職は当事者意識が足りない」。
当事者になれる材料を、渡していないだけかもしれません。
いちばん抜けるのは③、いちばん効くのは④
③権限が抜けると、「責任だけが増えた人」ができます。「任せた」と言いながら、その人が決めたことが上でひっくり返る。これが2回起きたら、人は決めるのをやめます。以後その管理職は、判断を全部あなたに上げてくる人になります——それは本人の資質ではなく、あなたが作った学習結果です。
④意味が抜けると、全部が作業になります。「何のためにこのチームがあるのか」を語れない上司の下では、メンバーは指示を待つしかありません。そして意味は、渡す側が自分の言葉を持っていないと渡せない。だからここが、いちばん高い。
「渡したつもり」を検証する方法
いちばん確実なのは、本人に説明させることです。次の3つを、当人に聞いてみてください。あなたが答えるのではなく、本人に言わせるのがポイントです。
- 「あなたの役割を、1行で言うと?」——あなたの理解と一致していますか。ズレていたら、渡したのではなく「言ったつもり」です
- 「あなたが自分で決めていいことは、何ですか」——3つ即答できなければ、権限は渡っていません
- 「このチームは何のためにありますか」——受け売りではない言葉が返ってきますか
3つとも詰まるなら、渡っているのは肩書だけです。研修を追加する前に、ここを直すほうが安く効きます(管理職が育たないのは、マインドではなく制度の問題)。
権限を渡すのが怖いときに
「任せて失敗されたら困る」——当然の感覚です。全部渡す必要はありません。範囲と金額で線を引けば、権限は安全に渡せます。
- 「この範囲の判断は、事後報告でいい」——範囲を明示する
- 「◯万円まではあなたの決裁で」——金額で切る
- 「迷ったら相談は歓迎。ただし、相談されたら答えを言わずに一緒に考える」——考える力を奪わない
そして最も大事なこと。渡したら、ひっくり返さない。どうしても覆すときは、必ず理由を本人に説明する。理由なく覆された経験は、その人の判断力を確実に殺します。
渡していないのに、拾ってくれている人がいる
もうひとつ、点検してほしいことがあります。渡してもいない仕事を、勝手に拾ってくれている人が、あなたの会社にいませんか。
若手のフォロー、現場の空気の調整、誰も手を挙げない雑務。責任感の強い人ほど拾います。そして拾った荷物は誰の目にも見えないので、評価もされません。
その人が辞めるとき、会社は初めてその量を知ることになります。見えていない貢献を見つけて、名前をつけて、評価に載せる。これは、コストのかからない離職防止策です。
任命の日にやること(3分でできます)
辞令を出すとき、次の4行を口頭でいいので添えてください。それだけで、渡るものが変わります。
- 役割:「あなたに任せるのは、ここからここまでです」
- 権限:「この範囲は、あなたが決めて構いません」
- 時間:「そのために、この業務をこれだけ手放してください」——ここを言わないと、管理は夜の残り時間の仕事になります
- 意味:「この役を置く理由は、こうです」——あなたの言葉で
4行あるかないかで、その人の3年後は変わります。
受け取る側から見た同じ話は、エンジニア向けにその肩書、中身は付いてきましたかとして書いてあります。自社の管理職に渡っているものが実際どうなっているかは、3分の組織診断の「育成・評価」と、社員診断の認識ギャップに出ます。
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