前任者の頭の中にあった仕事を、引き継いだあなたへ
この記事はSES経営の話です。自社の現在地は、3分の組織診断で測れます。無料・匿名です。
「引継ぎが無かった」という話を、SES営業からよく聞きます。正確には、引継ぎはあったが、要るものが入っていなかったというのがほとんどです。
渡されなかったものの正体
渡されるのは、たいてい顧客リストと過去の請求書です。渡されないのはこの4つ。
- なぜその客先はその単価なのか(相場なのか、言い値が通ったのか、安く出したのか)
- その客先の地雷(過去に何で揉めたか、誰がキーマンか、何を嫌うか)
- 断った案件と、断った理由
- 失敗した「人と現場」の組み合わせ
この4つが無いと、判断のたびにゼロから考えることになります。しかも判断を間違えたときだけ指摘される。
これは前任者が意地悪なのではありません
書いていないものは、渡しようがないのです。
とくに、社長が長く1人で営業をやってきた会社では、すべてが1人の頭の中にあります。頭の中にあるものは、本人にとっては空気と同じくらい当たり前なので、「渡すべきもの」だと気づかれません。20年ぶんの勘は、言葉になっていないから引き継げない。
だから起きるのが「理由は教えてくれないのに、結果には文句を言われる」です。悪意ではなく、本人も言語化していないから説明できない。
——ただし。説明できない側の事情は、受け取る側の消耗を1ミリも減らしません。ここは会社の落ち度です。はっきりそう思っていいです。
ここからは、あなたの話をします
逃げずに書きます。
「教えてくれないんだから、がむしゃらにやるしかない」——これは途中まで正しいです。最初の半年は、それ以外にやりようがありません。
でも、2年目もがむしゃらなら、それはもう会社のせいではありません。がむしゃらの中身を型に変える作業は、教わることではなく、自分でやることだからです。
会社が教えてくれないことと、自分が学ばないことは、別のことです。前者は会社の落ち度で、後者はあなたの落ち度になります。ここを分けないと、「会社が悪い」を握ったまま、実力だけが止まります。そして実力が止まると、選べなくなる。会社を選ぶことも、辞めることも。
今日から、自分の代で作れるもの
前任者が残さなかったものを、あなたが残す側になります。1件5分です。
① 単価の根拠 決まった単価と、決まった理由を1行。「先方の予算上限」「うちが言い値で通した」「相場より安く出して入れた」——3か月後に交渉するとき、これが唯一の武器になります。根拠のない値上げ交渉は通りません。
② 断った案件と、断った理由 断った記録は、次に似た話が来たときの判断を10分にします。そしてもう1つ、溜まると会社の実力の輪郭が見えてきます。「うちが取れない案件の傾向」が分かる。これは経営に持っていける材料です。
③ 客先の地雷 何で揉めたか、誰がキーマンか、何を嫌うか。これが、引き継がれなかったものの本体です。あなたの次の人には、渡してあげてください。
④ 人と現場の相性 うまくいった組み合わせと、そうでない組み合わせ。理由まで書くのがコツです。「技術的に合わなかった」ではなく「レビュー文化が厳しい現場に、自己流でやってきた人を入れた」。ここまで書くと、次から予測できます。
なぜこれが「あなたの資産」になるのか
顧客リストは持ち出せません。会社のものだからです。
でも判断の型は持ち出せます。頭の中にあるからです。
型を持った営業は、次の会社でも1か月で立ち上がります。型を持たない営業は、また同じ「引継ぎが無い」から始めることになります。そして——次の会社にも、たいてい引継ぎはありません。この業界の多数派がそうだからです。
つまりこの4つは、いまの会社のために書くのではありません。どこへ行っても通用する自分を作るために書きます。結果として会社も助かる、という順番です。
おまけ:会社に渡すと、立場が変わる
これを整えて会社に渡すと、あなたは「営業ができる人」から「営業を作れる人」になります。この2つは待遇が違います。前者の代わりは採用できますが、後者の代わりは採用できないからです。
社長が「なぜ教えてくれないのか」の答えが「言葉にしていないから」だとしたら、言葉にした人がその会社の営業の基準になります。それは、いま渡されなかったものの、いちばん大きなお返しかもしれません。
会社の側から同じ問題に取り組む道具として、「任せる」と「丸投げ」の違いも置いてあります。単価の根拠を残すところから始めるなら、単価交渉を「お願い」にしないへ。
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