書いていない範囲は、いずれ揉める——契約書と労働条件通知書の共通原則
この記事はSES経営の話です。自社の現在地は、3分の組織診断で測れます。無料・匿名です。
「客先との関係を優先し、契約に無い作業も基本的には引き受けています」——現場責任者からこう報告があったとき、それを現場の裁量として流していないでしょうか。この方針の危うさは、関係の良し悪しとは別のところにあります。
黙って受け続けた範囲は、「合意」に育つ
契約書に無い作業を断らずに受け続けると、それはいつの間にか「合意された範囲」として既成事実化します。しかもその実態は、客先が直接指示を出している材料として、偽装請負の判定にも使われかねません。
大事なのは断ることそのものではなく、書面にすることです。業務範囲を書面で確認し、変えるなら契約を改める——このプロセスを踏めない依頼は、そもそも受けてはいけない依頼だと分かります。口頭で単価の上乗せだけ交渉して実費を回収する対応は、範囲の広がりそのものを止めていないので、根本の解決になりません。
同じ構造が、社員側の書面にもある
似た構造は、客先との契約書だけでなく、自社の社員に渡す労働条件通知書にもあります。2024年4月から、労働条件の明示に「就業場所・業務の変更の範囲」が加わりました。
配属先が変わるのが前提のSESでは、ここが直接効いてきます。「変更の範囲」を書いていないと、配置転換のときに「聞いていない」で揉めるのは、当然の帰結です。あわせて有期契約には更新上限の明示、無期転換申込みの機会と転換後の労働条件の明示も加わっています。採用時の書面を数年見直していない会社は、まず点検したほうがいい。
「書いていない」は、性善説で成立しているだけ
顧客との契約も、社員との労働条件も、書いていない範囲は普段は何も問題を起こしません。誰も困らないうちは、性善説のまま回ってしまう。だからこそ、揉めるのはいつも「変化が起きたとき」——客先の担当者が変わったとき、配属先が変わったとき、です。平常時に点検しておかないと、変化の瞬間まで気づけません。
契約と労働条件、両方の書面を年に一度は棚卸ししてください。契約類型の見分け方はこちらの記事、自社の状態は組織診断で確認できます。
なお、この線引きをその場で顧客に伝える言い方は営業の仕事になります。断らずに持ち帰る一文と、更新時に範囲へ組み込む一文は客先の「ついでにこれも」を、断らずに引き取る言い方にまとめました。
2026年8月時点の制度に基づいています。実際の判断は、専門家の助言の代わりにはなりません。
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