🏢 経営向けの記事
「もう少し様子を見る」の値段——決めていない期間が、いちばん高い
判断を先送りしている案件が、いま何件あるでしょうか。
撤退を決めきれていない現場。値上げを言い出せていない客先。辞めさせるとも育てるとも決めていない社員。採用するともしないとも言っていない候補者。
どれも「まだ情報が足りない」「もう少し様子を見る」で止まっています。そして止めている本人には、それが慎重さに見えています。
遅い決定は、間違った決定より多い
CEOアセスメント17,000件超・CEO2,000人以上を分析した「CEOゲノム・プロジェクト」(Botelho ら、Harvard Business Review 2017)は、業績を分ける行動を4つ特定しました。そのうち最も強く効いていたのが決断力です。決断力が高いと評価された人が高業績のCEOである確率は、12倍でした。
ここまでは、よく聞く話かもしれません。問題は次です。
決断力の評価が低かった人の内訳を見ると、94%が「遅すぎる・決めている数が少なすぎる」だった。「速すぎて失敗した」は、ほとんどいませんでした。
つまり、経営者が実際に踏んでいる地雷は「早まった判断」ではありません。判断が存在しない期間です。
なぜ先送りは、精度を上げないのか
現場で答えが出た問題は、現場で終わります。社長の机に上がってくるのは、現場で答えが出なかったものだけです。
ということは、社長が扱う問題には、構造的に正解がありません。正解のない問いを寝かせても、正解は出てきません。増えるのは情報ではなく、「まだ決めなくていい」という感触の方です。
しかも、寝かせている間も時間は使われています。同じ研究グループの分析では、変化への適応がうまいCEOは時間の約50%を長期のことに使い、そうでないCEOは30%でした。差は20ポイント——1日を10時間とすれば、毎日2時間分です。決めていない案件は、その2時間を「考えているつもり」で食い続けます。
SESでは、先送りが特に安く見える
ここからが、この業界固有の話です。
先送りのコストは、普通の会社なら現場が止まることで見えます。 決まらなければラインが止まる、出荷が止まる、誰かが手を止めて待つ。だから「決めてください」と催促が来ます。
SESは違います。決めなくても、現場は今日も回ります。 エンジニアは客先にいて、今日も稼働し、今月も請求が立つ。撤退を決めなくても売上は入ってくる。値上げを言わなくても契約は続く。問題社員を放っておいても、その人は今日も現場にいる。
止まっているものは見えないところにあります。
- 撤退しない現場に張り付いている人の、行けたはずだった現場
- 値上げを言わない契約が、据え置きのまま重ねている年数
- 対応しない問題社員を見て、周りが下方修正している「この会社の基準」
どれも請求書には出てきません。だから「様子を見る」の値段が、この業界では特に安く見えます。実際には、優秀な人ほど先に見切りをつけるという形で払っています。
「決めない」を減らす2つの手
精神論では減りません。仕組みで削ります。
1. 情報ではなく、期限を先に決める
決めきれない案件について、中身ではなく「いつ決めるか」だけを先に書きます。9月10日、と書く。それだけです。
決定を作るのは情報ではなく期限だ、というのは経験則ではなく上の研究が示していることです。94%が「遅すぎ」だったということは、彼らに足りなかったのは情報ではありません。締切です。
2. 「戻せる決定か」を最初に判定する
戻せる決定と、戻せない決定を分けます。
戻せるもの——試しに単価を上げて交渉してみる、1人だけ配置を変えてみる、面談の頻度を変えてみる。これは即決でいい。間違っても戻せるからです。
戻せないもの——人を採る、辞めてもらう、大きな契約を切る、借入をする。ここにだけ時間を使います。
多くの会社では、この2つに同じだけ時間をかけています。戻せる決定を1か月悩んで、戻せない決定を勢いで決めている——順番が逆です。
測れる形にしておく
先送りは、意識では減りません。数えられる形にしたときだけ減ります。
- いま決めきれていない案件を、5つでいいので書き出す
- それぞれに「いつ決めるか」の日付を入れる
- 戻せる/戻せないの印をつける
これだけで、戻せるのに1か月止まっているものが必ず何件か見つかります。そこはもう、今日決めていい案件です。
そして翌月、同じリストを見てください。日付を過ぎたのに決まっていないものが、あなたの会社の本当のボトルネックです。それは能力の話ではなく、決める場が設計されていないだけのことが多い。月次の数字を見る場を、報告の場ではなく決定の場に変えるのが、いちばん手っ取り早い打ち手になります。
計画の時間が火消しに食われる仕組みは経営者の計画時間は、なぜ「今日の火消し」に食われるのかで書いています。決める人を自分ひとりにしない話は、あなたより優秀な部下は、もういるへ。